東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10894号 判決 1968年5月15日
原告 米野与三郎
右訴訟代理人 安武宗次
被告 伴道義
主文
被告の原告に対する東京法務局所属公証人長宗純作成昭和三〇年第三四二号公正証書の執行力ある正本に基づく強制執行は、昭和四〇年二月一日までの損害金債務のうち金一〇万円を紹える部分(即ちその余の損害金債務と元本債務)を除きこれを許さず。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(請求の趣旨)
被告の原告に対する東京法務局所属公証人長宗純作成昭和三〇年第三四二号金銭消費貸借公正証書の執行力ある正体に基づく強制執行は許さず。訴訟費用は被告の負担とする。
(請求原因)
(1) 被告は福田分次、日光本店、東京昼夜信用組合の名称を用いていたものであるが、被告の原告に対する請求の趣旨掲記の公正証書があり、右公正証書上、昭和二九年一〇月一六日被告は原告に対して金二六万六五〇〇円を弁済期昭和三〇年八月二日損害金年三割六分の約で貸金をなし執行を認諾した旨の記載があり、昭和三〇年八月二日から同四〇年二月一日までの右貸金の損害金九一万〇四八〇円のうち金一〇万円を原告は昭和四〇年三月一一日に弁済した。
(2) しかし原告は被告に対しそのような貸金債務はない(原告は福田分次から八万円借りたことはあるとしても、被告から借りたことはなく、福田分次に対してその貸金の担保のため原告の印鑑証明書委任状を交付したことがあるにすぎず、しかも福田分次に対する右貸金は既に弁済している)。
(3) そして本件公正証書は原告の印鑑証明書、委任状を用いて被告が恣に作成したものであって、原告がその作成の承諾をしているものではない。
(4) 原告は紙食器製造業を営む小売商人であるからかりに原告に右貸金債務があるとしても昭和三〇年八月二日の弁済期から五年の経過により商事時効が完成し原告の右債務は消滅している。
(5) よって被告の原告に対する右公正証書に基づく強制執行不許を求めるため本訴請求に及んだ。
(立証)<省略>。
理由
被告の原告に対する請求の趣旨掲記の公正証書が存在すること、右公正証書上原告主張の通りの貸金及び執行認諾の記載があることは当事者間に争がなく、成立に争ない甲第一二号証と原告本人尋問の結果によれば、原告は甲第一二号証のような公正証書を作成するために原告の委任状と印鑑証明書を被告に交付したことが認められるので、被告が原告の委任状と印鑑証明書を恣に用いて本件公正証書を作成したとの原告の異議事由は採用できない。
そして原告はその主張の公正証書上の二六万六五〇〇円の貸金のうち八万円については被告から借りたものではないと主張するがその余の部分金一八万六五〇〇円については、成立に争ない乙第三号証と弁論の全趣旨により、原告において同額の約束手形を振出して被告に交付していることに徹して被告から原告に対して同額の貸金のなされたことが認められまた、被告は福田分次の名称を用いて営業をしていたことを原告は自認しているのであって、原告は福田分次から貸金をうけたことは自ら認めているところであるからこの事実と成立に争ない乙第一号証により、原告は被告から右公正証書上の貸金の一部である金八万円を借受けたことが認められ、弁論の全趣旨に照らして、右二口の貸金を一口にまとめ本件公正証書上の貸金(準消費貸借)に改めたたものと認められる。(更に乙第八号証の原告押印が原告のものによることは争なく、原告作成部分の成立が真正でないことを証明する証拠はないので同号証の念書も真正に成立したと認められるので同書証によっても原告に対する被告の貸金は裏付けられる)従って、原告が異議事由として主張するように貸金債務はないといえない。
最後に原告は右貸金の損害金のうち昭和三〇年八月二日から同四〇年二月一日までの分九一万〇四八〇円のうち金一〇万円を同四〇年三月一一日被告に支払って弁済したことを自認しているのである。従って、右貸金の弁済期である昭和三〇年八月二日より満五ケ年以上後である右四〇年三月一一日に右のように内入弁済したのであって特段の事情は認められないのであるから右貸金の債務の存在を知り乍らその弁済をなし、債務の承諾をしたものと認められる。それゆえ原告の消滅時効の主張も容れることができない。原告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は採用できない。
しかし<証拠省略>によれば、原告は右公正証書上の債務につき損害金のうち昭和三〇年八月二日以降同四〇年二月一日までの分、合計九一万〇四八〇万円のうち金一〇万円を昭和四〇年三月一一日原告は被告に支払ったものと認めるべきであるから、結局原告の本訴請求は主文第一項の限度で本件公正証書に基づく強制執行の不許を求める理由があるので認容し、その余の部分は理由がないので棄却する。<以下省略>。